免疫不全の赤ちゃん

「免疫不全」とは?

免疫不全とは、何らかの原因で免疫細胞や抗体の数が少なかったり、うまくはたらかなくなることにより、免疫の機能が低下し、感染しやすくなる状態のことをいいます。免疫不全の原因はさまざまです。ここでは、乳幼児でみられる免疫不全の状態になる主な症状や疾患を説明します。

原発性・後天性免疫不全症(げんぱつせい・こうてんせいめんえきふぜんしょう)

原発性免疫不全症とは?

遺伝的に生まれたときから免疫の機能が弱い状態で、リンパ球(T細胞、B細胞)や抗体などが著しく少なかったり、病原体への反応が鈍く、なかなか増えないなど、免疫機能がうまくはたらかなくなっています。このため、病原体の増殖をゆるし、感染症にかかりやすくなります。原発性免疫不全症には、複合性免疫不全症(ふくごうせいめんえきふぜんしょう)、DiGeorge(ディジョージ)症候群、Wiskott-Aldrich(ウィスコット-オルドリッチ)症候群、 毛細血管拡張性運動失調症(もうさいけっかんかくちょうせいうんどうしっちょうしょう)などがあります1)

後天性(続発性(ぞくはつせい))免疫不全症とは?

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染やステロイド薬、免疫抑制薬などにより、後天的に免疫機能が低下している状態です。ステロイド薬は自然免疫と獲得免疫の両方に抑制的にはたらくため、感染症にかかりやすくなります。

  • 1)

    日本免疫不全症研究会 編. 原発性免疫不全症候群診療の手引き. 診断と治療社. 平成29年4月

造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)移植を行う赤ちゃん

造血幹細胞移植とは

造血幹細胞は、血液のもととなる細胞です。この造血幹細胞を、提供者(ドナー)から移植することを造血幹細胞移植といいます。
造血幹細胞移植は、血液をつくる機能に何らかの異常があり、血液をつくることのできない赤ちゃんに行われる治療法のひとつです。
腫瘍性疾患(しゅようせいしっかん)の赤ちゃんや血液がつくれない再生不良性貧血、あるいは免疫不全の赤ちゃんでは、造血幹細胞移植が行われることがあります。

造血幹細胞移植のながれ

造血幹細胞移植のながれ_イラスト
※イメージ図

造血幹細胞移植と免疫不全

他人の造血幹細胞を移植する前には、移植する造血幹細胞と新しくつくられる細胞が赤ちゃんの免疫システムによって排除されないようにするための準備として、強力な抗がん剤や放射線を用いて、骨の中の骨髄(こつずい)というところにある造血幹細胞や血液中の免疫細胞をなくします。これにより、免疫システムは一度すべてなくなってしまいますが、その後、移植された造血幹細胞から免疫細胞がつくられ、新しい免疫システムが機能するようになります。
しかし、新しい免疫システムがスムーズに機能するまでには早くて1年ほどかかります。その間は免疫力が低い状態が続くため、感染症にかかりやすくなり注意が必要です。

固形臓器移植を行う赤ちゃん

固形臓器移植と免疫力低下

心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸などの臓器不全の治療で、他人もしくは家族などから臓器を移植する際にそのまま移植すると、赤ちゃんの免疫機能がはたらき、移植した臓器を攻撃して壊してしまいます(免疫拒絶)。
そのため、免疫システムが移植した臓器を攻撃しないように、ステロイド薬や免疫抑制薬を投与します。
免疫抑制薬が少なすぎると免疫拒絶が起こりますが、多すぎると感染症にかかりやすくなります。
とくに、手術後、まだ間もないときは、体力が落ちているうえに、ステロイド薬や免疫抑制薬の服用により細菌やウイルスなどに対する免疫力も低下している状態になりますので注意が必要です。
一般的には、免疫抑制薬の使用量が多い移植後3か月以内がかかりやすいとされています。また、移植後時間がだいぶたってからかかりやすい感染症もあるため、健康には十分注意し、ちょっとしたかぜやけがなどでも主治医などに連絡しておくことをおすすめします。

※イメージ図
免疫抑制薬の作用のバランスがちょうど良い状態_イラスト

免疫抑制薬の作用のバランスがちょうど良い状態

免疫抑制薬の作用が強すぎると感染症が起きやすくなる_イラスト

免疫抑制薬の作用が強すぎると感染症が起きやすくなる

免疫抑制薬の作用が弱いと拒絶反応が起きてしまう_イラスト

免疫抑制薬の作用が弱いと拒絶反応が起きてしまう

腫瘍性疾患がある赤ちゃん

腫瘍性疾患の治療

腫瘍性疾患には、白血病やリンパ腫、小児固形腫瘍(神経芽腫(しんけいがしゅ)、腎芽腫(じんがしゅ)、網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)、横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)など)があり、治療には主に抗がん剤のほか、放射線治療なども用いることがあります。
抗がん剤にはいくつかのタイプがありますが、ほとんどの抗がん剤が骨髄(こつずい)で細胞をつくるのを抑制するはたらきがあり、 骨髄抑制(こつずいよくせい)作用とよばれます。骨髄抑制作用により免疫細胞(リンパ球や好中球など)が少なくなり、免疫機能が低下するため、抗がん剤治療を行っている赤ちゃんは感染症にかかりやすい状態になっています。

抗がん剤や放射線治療はがん細胞に効果的ですが、骨髄にある造血幹細胞にも作用するため、免疫細胞が減少し、免疫機能が低下します。

※イメージ図
造血幹細胞から血液中の免疫細胞がつくられます_イラスト

造血幹細胞から血液中の免疫細胞がつくられます

抗がん剤や
放射線治療など

免疫細胞が少なくなると感染症にかかりやすくなります_イラスト

免疫細胞が少なくなると感染症にかかりやすくなります

腎臓病・膠原(こうげん)病および免疫抑制を伴う薬を使用する赤ちゃん

乳幼児の腎臓病-小児ネフローゼ症候群

乳幼児の腎臓病では小児ネフローゼ症候群が多くみられます。
小児ネフローゼ症候群の赤ちゃんでは、腎臓の中で、尿中の老廃物とタンパク質をろ過して分ける糸球体(しきゅうたい)とよばれる部分が障害されています。このため、血液中のタンパク質が尿の中に漏れ出てしまい、どんどんからだの外へ出ていきます。からだの中に入ってきた病原体をとらえる抗体もタンパク質でできているため、せっかくからだの中で抗体がつくられても、尿から排出されてしまいます。
また、治療では、主にステロイド薬と免疫抑制薬という薬が使われます。
からだの中の抗体が少なくなることと治療で使われる薬の影響で、免疫機能が弱まり、感染症にかかりやすくなります。

正常_イラスト

正常

小児ネフローゼ症候群_イラスト

小児ネフローゼ症候群

小児リウマチ・膠原(こうげん)

免疫は、自分以外の異物(細菌、ウイルス、がん細胞など)を排除しようとするしくみです。しかし、小児リウマチ・膠原病の赤ちゃんでは、自分の細胞と異物を区別できず、自分自身の細胞を攻撃してしまいます(自己免疫反応)。その結果、全身性の炎症が起こり、さまざまな臓器が障害されます。
自己免疫反応を抑えるために、ステロイド薬や免疫抑制薬、生物学的製剤が使われますが、これらの薬によって免疫反応が抑えられることで、感染症にかかりやすくなります。

小児リウマチ・膠原(こうげん)病_イラスト
※イメージ図

主な小児リウマチ・膠原病

  • 若年性特発性関節炎(とくはつせいかんせつえん)
  • 小児全身性エリテマトーデス
  • 若年性皮膚筋炎(ひふきんえん)
  • その他
    • 混合性結合組織病
    • ベーチェット病
    • シェーグレン症候群
    • 血管炎症候群(高安(たかやす)病、結節性多発(けっせつせいたはつ)動脈炎、川崎病など)
    • 抗リン脂質抗体症候群
監修:長谷川 久弥 先生
東京女子医科大学附属足立医療センター 新生児科 教授